2021年11月8日月曜日

エッセイ・シリーズ ⒈ 「エチオピアとタビ」


MARUGO TOKYOにて開催中の特別展示「エチオタビと歩きだす〜日本からエチオピア、地下足袋の旅」では、エチオピア産地下足袋「エチオタビ」の活動を率いる田中利和(龍谷大学経済学部現代経済学科・准教授)はじめ、フィールドワークを共にした研究者・アーティストのエッセイを紹介しています。


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エッセイ・シリーズ ⒈ 「エチオピアとタビ」

田中利和(龍谷大学経済学部現代経済学科・准教授)






「エチオタビ」とはエチオピアへの「旅」のことだと思いましたと、言われることがあります。エチオピア生まれの「地下足袋」のことを意味する「エチオタビ」の話は、私の1996年の3月、当時13歳の時に「旅」と関係しています。

見たことも、聞いたこともない知らない景色や空気を、さまざまな人たちとともにする旅は、当時の私にとっては、非常に刺激的なものでした。とくに印象深かったのは、畑を耕す「牛」を病から護る仕事を地域に住み込みながらしている日本人獣医師のDr.野田さんとの出会いです。牛を護る彼のDr.という仕事に憧れて、私の生きる術を、探す「旅」がはじまります。

大学時代は農学部にすすみながらも、分野を超えた、さまざまな人びととの対話する時間に恵まれました。そのなかで、エチオピアの農業を、現地の農家の人から衣食住をともにしながら学ばせてもらう、フィールドワーク研究というものに出会うことができました。エチオピアに少なくとも2000年以上つづく「牛」とともに「耕す」農業の可能性を探求する研究の「旅」がはじまります。

 はじまりの旅で温泉のシャワーを浴びた思い出のある、エチオピアの中央高原のオロミヤ州南西ショワ県ウォリソ市を再訪しました。そして、25歳のときに、ガーグレという農村のバルチャさん家族として、1人受け入れてもらうことから調査ははじまります。彼らにしてみれば日本という遠い外国からきた大人が、慣れない地で、調査という名の生活をするのですから、いろいろと不安はあったと思います。例えば、食事や気候は身体にあうのだろうか、言葉が通じないことは大丈夫であろうか、雨季である耕作期のぬかるむ道を歩けるだろうかなどが、当初彼らの心配事だったようです。しかし、私は長年の夢であった、エチオピア農村での生活に毎日感動を覚えながら、日々の生活を楽しむ調査の「旅」はすすみます。

 牛耕の雨季に私の足元で、問題が生じます。現地の土は、水を含むと長靴や靴などにへばりつき、地面にはまってしまいます。逆に乾くと土の塊は、ガラスの破片のように鋭くなるので、足は傷ついてしまいます。裸足で進む彼らを真似てみるものの、あまりの足の「痛さ」でかなわなかった私は、彼らに背負ってもらって、畑にはいるという、お荷物でした。土が張り付かない靴下を履くという異例のアイデアでの試みを経て、翌年日本から鳶職用の地下足袋をもっていきました。私自身は安全に快適に、この日本の地下足袋のおかげで、牛耕の調査を安全に安心して、すすめることができました。このことは彼らにとってみれば、見たことも、聞いたこともない、未知の履物「地下足袋」との出会いでもありました。そして、私は彼ら自身の足も同様に痛むこと、現地には足にまつわる病気や怪我が蔓延していることが浮き彫りになってきました。同時に、このことは、現地の足にまつわるこの課題を解決していく、「旅」の、あらたなはじまりでもありました。

 私を研究者のDr.として育ててくれたウォリソという土地と人びとに恩返しをするために私には何ができるだろうと考えてきました。そして、この地下足袋自体がさまざまな可能性に満ちていると思うようになりました。私には獣医のDr.野田さんが彼らの牛を護っていたように、人びとの農耕作業中の足元を護ることができるのではないだろうかと考えるようになりました。私は、ウォリソ生まれの皮革職人で起業家のカッバラさんと、エチオピア産の地下足袋、「エチオタビ」の製作に乗り出しました。2017年には、足をとめるコハゼのない黄色の試作品1号の労働用の帆布地下足袋を製作しました。その後、日本の老舗、地下足袋会社「丸五」の技術情報をはじめとする、さまざまな協力を得て、2018年にはエチオピアの製靴技術をベースにした日常にも使える、彩り豊かな軽量で耐久性のある牛や羊の革地下足袋を、3週間の間に3人で200足、誕生させることができました。より日本の労働用地下足袋のエッセンスを追求した、エチオタビの改良と開発を現在はすすめるとともに、今後も、あらたな地下足袋像を探求、創出する、仲間との「旅」は深まっていきます。

 エチオタビの歩みを仲間と進めていると、心と身体がわくわくする体験をします。それは、旅先で、見たことも、聞いたこともない、未知のものと、出会いを通じて、自分の中の何かと繋がって、震えるような感覚ともいえると思います。今後もエチオタビをつうじて、さまざまなものが、時や空間を超えて、結ばれることによって、私達が、わくわく震えるがさまざまなものが、生まれていけばよいなと思っています。エチオタビの「旅」は広がりつづいていきます。



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特別展示「エチオタビと歩きだす〜日本からエチオピア、地下足袋の旅」


|展示会期|

2021年10月16日(土)~12月3日(金)

午前11時~午後7時

*日曜・月曜・祝日は休業日となります。


|会場|

MARUGO TOKYO

住所:東京都中央区京橋1-17-1 昭美京橋第2ビル1階

アクセス:東京駅八重洲中央口より徒歩10分

電話:03-3566-6105


|展示に関するお問い合わせ|

田中利和(龍谷大学経済学部現代経済学科・准教授)

メール: tanaka.et@econ.ryukoku.ac.jp


|エチオタビ・ウォリソタビについて|

  • Mana Ethiopia-エチオピ屋の研究記録(田中利和・ブログ):http://toshikazutanaka.blogspot.jp/
  • Facebook「アフリカ地下足袋プロジェクト」:https://www.facebook.com/africa.jikatabi


*本展は入場無料でご覧いただけます。


|謝辞|

東北大学付置研究所若手アンサンブルプロジェクト、東北大学東北アジア研究センター


|後援|

京都大学学際融合教育研究推進センター