2011年10月30日日曜日

エチオピア農民の足を護る地下足袋BOPビジネスの可能性


田中(2011)「エチオピア農民の足を護る地下足袋BOPビジネスの可能性」、『All About Ethiopia2』 、日本エチオピア協会


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エチオピアの農民の足を護る地下足袋を導入する方法として、エチオピア人によるエチオピア人に向けたビジネスの仕組み作りを地域研究者という立場で構築したいと考えています。

私は2007年の8月から、エチオピア中央高原首都アディスアベバからおよそ南西110キロに位置するオロミヤ州南西ショワ県ウォリソ郡ディレディラティ村に暮らすオロモ(Oromo)の人々を対象に、在来の農業について調査をおこなってきました。調査地は比較的降雨に恵まれた国内でも有数のテフの穀倉地帯です。雨季の始まる5月から8月のおよそ3ヶ月間、テフの播種のために牛耕(写真1)が行われます。私はこの牛耕に焦点を絞り、これまで約12ヶ月間の現地調査を実施してきました。

写真1
写真2
牛耕の調査を通じて土に問題があることがわかってきました。テフ畑の土は写真2
のように水分を含むと粘性が強くなるバーティソルという土壌です。しかし、水分を含まないと固まります。牛耕技術の特質上、写真2右のように、表面をひっかくように間隔をあけて耕すので、雨季には出っ張った固い面と、凹んだ粘質の面の、両方の性質が同時に現れることになります。現地にある既存の長靴や作業靴といった履物では、写真3のように粘性の土が張り付き、しまいには足がハマって身動きをとれなくなってしまいます。

写真3

そのため農民はこの雨季の牛耕に限って、例外なく全員裸足で畑にはいります(写真4)。


写真4


居住地から畑までの4キロの道のりも裸足です。この道中の土も水分を含むとよく滑ると、アルフィソルという土壌の性質のため、裸足でないと滑ってしまうと人々は語ります。そのため、道中や作業中尖ったものを踏んだり、固い土で足を傷つけたりするという怪我が多く見受けられます。
 
はじめて雨季の牛耕に調査者として参加した時は私自身大変苦労しました。圃場までの道のりもさることながら、畑につくや、靴を脱がざるをえませんでした。農民と同じように裸足で畑に入ろうと試みるのですが、尖った石のような乾いた土は、私の裸足に付刺さり、激痛のため畑の中を歩くことができませんでした。これでは調査にならないので翌年、地下足袋を日本から持ち込み試しました(写真5)。


写真5

木綿生地は水分が染み込むものの粘質土壌は張り付きません。地下足袋の底のゴムの面も厚みがないため多量の土がくっつくということもありませんでした。補修をかさね2ヶ月間使い続けることができました。地下足袋導入時の地域住民の反応は「なにこれ?」や「牛の足みたい」「靴下とソールか、すごい発想だ!」と反応は様々でしたが、「日本に帰るときでいいから、売ってくれ」といった反応が特に目立ちました。私はある地域住民「それをくれ」と言われてこんなやりとりをしました。「私は君たちみたいに足が硬くないし、柔らかいからこれがないと痛くて畑に入れないことを知っているでしょう? だからあげられない」と答えたところ、「私たちだって柔らかいし痛いんだ!(怒)」と怒鳴られ、地域に潜在する問題に気がついたのです。

以上のような経緯から現在地下足袋のニーズが広くあると仮説を立てて、地域資源を利用して地下足袋を作ることができないかと考えています。地域資源とは地域開発などの文脈でつかわれる、特定の地域に存在する特徴的なもので活用可能なものの総称で、自然の資源だけでなく人的なものや文化的なものなども含まれるものとします。

地下足袋の底ですが、現在古タイヤを再利用したサンダルなどもエチオピアではみかけます。木綿などの素材もエチオピアの市で手に入ります。また裁縫技術に関してですが、街には工業用のミシンを使う仕立屋もいます。それに加え、リストロとよばれる靴磨きを仕事とする人達の中には、優れた靴の裁縫技術を有していて補修などをおこなう人もいます。地下足袋を作る上で足りない資源は、小鉤(こはぜ)と呼ばれる留め金です。これもスカートのホックなど応用できる物を探し出せる可能性はあるでしょう。地域資源で地下足袋を制作できる可能性は十分にあると推測しています。

農民の足を護るという点では、結果的に労働条件が改善され、牛耕の作業能率の低下防止にも貢献できる可能性があります。

そこで地下足袋を地域に導入する仕組みづくりとして、現地でこのコンセプトを共有できる人材と共同で地下足袋会社を起業できないかと考えています。地域資源を十分に活用し、現地の人による現地の人にむけた社会課題解決に向けた、地産地消ビジネスモデルを構築できないものかと模索中です。

計画の第一弾として、今年度(2011年)5月から約10ヶ月の現地調査をおこないます。農民に地下足袋の試用を依頼し同時に地域資源を調査するなかで、地域研究者としてビジネスの仕組みづくりの可能性を検討していく予定です。


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以上の記事は2011年6月に日本エチオピア協会より発行された記事を加筆修正したものです。



2011年1月29日土曜日

アフリカ農業農村開発に関する国際シンポジウムの報告と地域研究学徒のぼやき

先日、アフリカの農業農村開発に関する国際シンポジウムを聞きに東京まで行ってきました。長くなりますが私的な報告とコメントを書き残します。

JICAF 国際シンポジウム 私たちとアフリカ
—アフリカの貧困と飢餓の撲滅を目指した農業農村開発—
http://www.jaicaf.or.jp/news/JAICAF_Symp20110120.pdf

シンポジウムの主な趣旨は、まず実際アフリカで取り組まれているアフリカの人々によるユニークな農村開発の事例も周知するというものでした。その上でNGO、JICA、民間企業、など様々なセクターで農業・農村開発に関わっている人々から話を聞いて、その情報を共有するなかで、今後私たちに何ができるか考えるというものであったと思います。参加者はアフリカの農村開発に関わってきた実務家、学生、研究者、アフリカの人々など多彩な顔ぶれ(僕が知っている限り)で大変賑わっていました。立場を超えて関心がある重要な課題であるのだなというのが会場に入ってからの感想です。

詳細は割愛するとして、それぞれ報告があったセクターごとの取り組みの特徴を簡単に考えてみたいと思います。

NGOからは、ハンガーフリーワールドのウガンダ支部での活動の報告を聞きました。現場にはりつきながら丹念に仕事をされているというのがよくわかるものでした。分野にとらわれない、総合的かつ臨機応変に対応できる強みがあるなと感じました。また、即効性のない時間のかかる課題に対しても時間をかけて柔軟に取り組めるのが強みであると認識しました。活動を通じて人を育てることにも大きな可能性があると感じました。

NGOハンガーフリーワールド
http://www.hungerfree.net/international/uganda/

JICAの報告は、一見ODAの潤沢な資金を使ったインセンティブな開発のイメージもありましたが、実際現在行われているプロジェクトの報告はマラウィの小規模灌漑プロジェクト、ザンビアでの小規模農村開発支援、ケニアでの小規模園芸農民の収入向上の事例などをとりあげ、現地の物や人といったリソースを使い、手間も時間もかけて工夫しながら取り組んでいる様子が伝わりました。大変評価の高いプロジェクトとしてエチオピアでとりくまれているFRGプロジェクトのことも紹介されていました。 

JICA農業農村開発事業 
http://www.jica.go.jp/activities/issues/agricul/index.html 

JICA FRGプロジェクト
http://www.jica.go.jp/project/ethiopia/001/outline/index.html

以上の二つの取り組みはある程度僕の中では知見があったので、再確認に終わった一面があります。
民間企業、味の素のアフリカにおける事業事例というのは、好奇心を大変くすぐるものでした。
まず、事業の戦略として、アフリカの人々を「消費者」と設定しているところが強みだと思いました。消費者つまり、お客様の欲求に答えるという全面的な姿勢が出ています。Affordable(誰でも気軽に買える)、Available(どこでも買える)の実現に終始徹底しています。アフリカでの取り組みは、現地密着、小売店で現金で製品(現物)を直接販売するシステムを構築している例を紹介していました。ブラジルでの取り組みでは、地域にあった発酵原料の選択をし、資源循環型のアミノ酸生産をおこなっているバイオサイクルの取り組みの紹介がありました。農学の技術を高度に現場で応用している例であると思いました。流石と感心しましたが、個人的には大企業だからこそできる圧巻の技だなというイメージもつきまといました。

詳しくは味の素CSR部ホームページへ
http://www.ajinomoto.co.jp/activity/csr/global/

この味の素のアフリカでのとりくみですが、ノウハウ、とても健全だと思いました。実際農村に住みこみながらフィールドワークをしていると、上記の2点が満たされて、かつ欲しいと本当に思うものは、お金がある時消費者の農民は買います。それをまた生活の場に上手に役立てている場面も観察します。企業というのは、お互いがメリットを得られ、即効的かつ持続的さらには面的に普及していくサイクルをうみだす仕組みを有しているなと思いました。

終盤の討論では、それぞれのセクターには強みがあるが、それぞれが独立してやっているのがもったいないという指摘がありました。互いのセクターが有機的につながることによって、お互いの持っている強みが最大化される可能性はあるのではないかという指摘もありました。この意見には僕もすごく同感です。どのセクターも、その軸をもちつつも、接点である「のりしろ」をもつことが重要なのではないかと思いました。のりしろがないとそれだけで完結してしまい、大きく展開されていきませんしね。
最後は古いパラダイムは終わりで、マルチパートナーシップの時代なので、このシンポジウムがきっかけで連携が生まれればよいと思いますというくくりかたが印象的でした。今後ともこういった共有できる場を定期的につくることが重要であるとも感じました。

以上報告であり、ここからが私的なコメントです。アフリカ地域研究を専攻する学生としてのぼやきと夢が大きく含まれています。

どのセクターでも共通するキーワードは現地にあるリソースを有効活用するという点にあると思います。そして価値を最大化するというところにつきると思います。その大前提は、やはりまずは現地アフリカから学ぶという姿勢にあると思うのです。アフリカの現場で何がおきているのか、彼らがどのようにしたたかに対応しているのか、現場から学ぶことが普遍的に必要なことだと思うのです。
ここに、アフリカ研究者が貢献できる位置が僕はあると考えています。研究という立場スタンスを軸に置きつつも、「のりしろ」をのこして、マルチパートナーシップの一員として現地の人々によりそう立場を大切にしながら、貢献できたらと思うのです。
さらにアフリカ地域研究を専攻している学生の僕は、アフリカの人々の「のりしろ」にも注目したいと思うのです。現地の人にも立場があります。そしてスタンスがあります。これらをまず理解すること、浮き彫りにすること、この作業が不可欠で、僕の確信する彼らが有するなんともいえない素敵な「のりしろ」の範囲も知ることが重要だと思うのです。
みんな立場は違いますが、目指している方向性は、一致しないなんてことはありえないと僕は信じています。みんな、アフリカの農業が、農村が、人々の生活が、よりよくなればいいなと考えていると思っています。それがもし間違っていなければ、地域研究者はアフリカの人、各セクターの人の「のりしろ」をつなぐ「のり」になるという可能性も考えられると思うのです。そのためには、まずはそれぞれの立場を理解する、オープンマインドが不可欠だと自覚しています。そして、互いの立場を尊重しつつ謙虚に学び自分の立場も大切にする。折角、接点があるのですから、関わることによってお互いのよりよい関係を築いていきたいものですよね。そしてよりよい生活を共に考え創造していきたいと思うのです。

長期でフィールドワークを行う院生や、PDの研究者などは、アフリカの農民のニーズや、現地のリソースを把握する優位性を兼ね備えていると思います。
これは大きな可能性を秘めていると思うのです。ここに企業のノウハウの視点を加えることにより、新しい反応が起きないかなと考えるのです。アフリカの人の消費者目線に寄り添う。周りの資源を熟知する。この二点を深く把握した上で、彼らのアイデア、僕らがもっているアイデアも最大限活用してなにか新しい展開を生み出す発明研究もあってもいいと僕は思っています。現在フェアトレードや、現地で付加価値をつけて外国に輸出するという外向きの取り組みはありますが、それに加え、内向きに展開できる可能性もあると思うのです。
搾取はしないというところに最大限配慮しながら、アフリカの人々と対等な関係と対話のなかで、アフリカの人々が欲しがる、本当に生活の役に立つものを、現地の資源で作り、どこでも気軽に買えるシステムというのを作ってしまう発想も僕は大いにありだと考えています。現地で仕掛けて創造していくスタイルのアフリカ研究があってもいいと思うのです。もしかりに、そんな発想がフィールドワークの経験から湧いてきたのならば、まずは研究という軸で考察しつつ、「企業」のノウハウを参考にさせてもらった上で、アフリカの現地の人に向けたものを売る「企業」を「アフリカで起業」してしまえという発想もありだと思うのです。そんな若い夢をもった、つっぱしる若生を、挑戦するまえに「無理だよ」や「その前にやることあるでしょう」と突き放すのではなく、そういう試みもありだと思って「よしやってみろ」と暖かく全面的に支援する体制というのが整えばいいなと思うのです。若さと情熱というエネルギーを特権に、アフリカ研究という地の利と、時間の融通が聞く利を活かして、こういったことを仕掛けるチャンスをいただければ、日本独自のアフリカに対する新しい農村開発の一面がみえてくるのではないかな、と僕は夢をみるのです。

ちなみに、僕、具体的なアイデアはあって、現在学術の知見もかりつつ慎重に吟味中です。まずは現地で文化実験調査です。夢とモチベーションはもちつづけていきたいと思っています。