2021年10月12日火曜日

広報誌「龍谷」2021 No.92: 24-27「ゴールは地下足袋の普及 エチオピアと日本の協奏の旅」


広報誌「龍谷」2021No.92: 24-27


ゴールは地下足袋の普及 エチオピアと日本の協奏の旅 


日本の地下足袋は「牛の足」だった 


中学生のとき、スタディツアーで訪れたエチオピアで「現地の人々の生きる力の強さに完全に魅せられました」と語る田中利和准教授。必ずここに戻り、何らかの形で貢献したいと、大学院で人類学と農業研究を専攻。
 

エチオピアの農業の主流である「牛耕」について参与観察するために、ついに思い焦がれていた地へ。オロミヤ州ウォリソの農村で、牛が耕す畑に彼らと同じように裸足で喜び勇んで入った瞬間、激しい痛みが足を襲った。原因はエチオピア特有の黒土・バーティソル。粘性が非常に強く、水を含むと土がまとわりついて足をとられるのだが、乾燥する とガラス片のように鋭利になる性質を持つこれが足に突き刺さるため、裸足では身動きすらとれなくなってしまったのだ。


「初日は、農民の方に背負ってもらって、畑から脱出するありさまでした」


現地には牛耕用の履物は存在しなかったため、次の日からは畑に入るための履物を試行錯誤。靴下を履くと痛みを感じにくく何とか動くことができたが、わずかな時間で ボロボロに破けてしまい、使いものにならなくなった。 


そこで、頭に思い浮かんだのが日本の地下足袋です。翌年の参与観察では、地下足 袋を持ち込んで装着したところ、動きやすい、 痛くない、丈夫と、エチオピアの黒土の畑での耕作にうってつけでした」 農民たちは、この未知の履物・地下足袋 に「形も働きぶりも、畑を耕してくれる牛の足のようだ」と驚きや興味を示す一方「私たちの足だって痛い。その履物が欲しい」と切望された。「現地の人はこの黒土を耕しながらも、足の痛みに悶絶していると考えるようになりました。負傷が原因で、ポドコニオシスという非フィラリア性象皮病などの足の疾患を発症したり、破傷風で最悪死に至るといった問題も直面していることがわかってきました」


田中准教授は、人々の足、そして命を護るため、エチオピアでの地下足袋の普及を決意する。「単に日本から地下足袋を寄贈するのではなく、現地の資源を活用し、主体的かつ持続的な課題解決の仕組みを構築するため、「つかう・つくる・うる・つたえる」という4つの実践・研究セクションを設定しました。 地下足袋の“たび”と旅をかけて『エチオピ アと日本の協奏の旅』と銘打ったプロジェクトとしてスタートさせました」


 エチオピア農民の足を護る「Ethio-Tabi」を 


まず「つかう」のセクションについては、老舗地下足袋メーカー株式会社丸五(岡山県 倉敷市)の協力を得て地下足袋を現地住民に提供。試用調査では痛みがない、日常の履物としても快適だと好評を得た。 


次に「つくる」のセクションについては、エチオピアは靴産業が盛んで、革や布、ソールのゴムといった原材料および職人の確保が可能。田中准教授の友人で、起業家・皮革職人 のカッバラ氏が丸五の地下足袋を参考にプロトタイプ第1号を作り上げた。 


「想像以上の出来に友人ともども手応えを掴み、エチオピア産の地下足袋を『Ethio-Tabi (エチオタビ)』と命名しました」 


さらに丸五が惜しげもなく地下足袋の鋳型を提供、企業秘密の製造方法も開示。 ファッション性を備えた革製の日常用と、布製の農作業用「Ethio-Tabi」が完成した。「ただ、農作業用はゴム底が剝がれやすく改善が必要です。『うる』に関しても、現地で販売会をおこないましたが、経費、製造量、農民 の労働と収入サイクルの面から価格設定は難しく、ビジネスとして軌道に乗せるにも課題は山積みです。そのため、日本での『つたえる』も強化し、クラウドファンディングなども進めていく予定です」 


課題も多い一方「エチオピアで地下足袋」というユニークさから各方面の注目を集め、 センサー搭載の地下足袋の研究・開発、運動生理学による身体情報の分析、アーティストによる「Ethio-Tabi」の絵本製作など、協奏の輪が拡大している。「こういった広がりもプロジェクトの狙いです。私は研究者の基盤を築いてくれたエチオピアへの感謝の気持ちも込めて、協奏のコンダクターや異分野のブレンダ ーとして力を尽くしていきたい 。日本でEthio-Tabiが使われることも夢見ています」 

Ethio-Tabi」がエチオピアの人々に豊かさや幸せをもたらす存在となるその日まで、協奏の旅は続く。 




P24,25