JANES ニュースレター No.21 pp56-57
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内容紹介 コーヒーモノガタリ Coffee Story 2012年3月
執筆者:織田雪江 発行元:アフリカ理解プロジェクト
本書は、日本人の生活に身近なコーヒーを切り口とし、アフリカの文化と、人びとの暮らしと課題、そして私たちのとるべき行動を「学ぶ」ことを目的とした教材である。発行元のアフリカ理解プロジェクトは、アフリカ理解を通じて、グローバルな視野を持つ人材育成を目的として活動する「開発教育」の理念を基板におく国際NGOである。中学、高校の社会科教諭でもある著者は、コーヒーの「生産者の顔」が見えるようにすることや、「フェアトレード」について学習できる教材を作成するために、2008年にエチオピアに渡航した。その時に現地で触れたエチオピア独特のコーヒーセレモニーや、牧畜民カラユの人びとのコーヒー文化に感銘をうけたという。その経験を日本の人びとにも伝えたいという想いを、この旅で出会った発行元との協働によって実現したのが本書であり、日本の小学校から大学、企業の社会貢献研修などで行なわれる参加型学習の教材として活用できる内容となっている。
本書の前書きには5つの目的があげられている。1)コーヒーの生産工程とエチオピアのコーヒーをめぐる文化を知る、2)コーヒーにまつわる経済格差の現状を認識する、3)フェアトレードコーヒーを生産するタンザニアのルカニ村で起きたコーヒー危機(コーヒーの国際価格の暴落で村が受けた負の影響)の状況を知る、4)多面的な視点でフェアトレードを捉え、批判的な思考を養う、5)コーヒー農家の現状を改善する方策を考え、問題を解決する態度を養う。これらの目的を達成するために、著者は以下の8つのテーマを用意している。
1.
コーヒーをめぐる多様な文化
2.
コーヒーの生産国と輸入国からみえること
3.
コーヒーの価格を決めるのはだれ?
4.
タンザニアのルカニ村を訪ねてみよう!
5.
フェアトレードのコーヒーのパッケージを比べてみよう
6.
フェアトレードのポップをつくろう
7.
コーヒー農家の現状をより良くする方法を考えよう
8.
「フェアトレード」とのつきあい方を考えよう
コーヒーの文化について考えるテーマでは、付属のコーヒーの生豆・葉・殻の写真や、エチオピアで使われるコーヒーポットとカップの副教材を用いて、コーヒーセレモニーを体験し、コーヒーの作物としての特徴や、現地での飲み方ついて理解する(テーマ1)。 続くテーマは、付属のワークシートをもちいて、統計資料の読取りや、モノカルチャー経済、国際価格の変動要因、一般市場とフェアトレードでのコーヒーの価格の決め方の相違について、経済の視点から学習する(テーマ2、3)。次に、写真から得られる情報をもとに、話し合いを通じて各学習者が抱く印象を共有し、タンザニアの農村に暮らす人びとの生活について理解を深める(テーマ4)。続いて、日本で手に入るコーヒー豆のパッケージを用いて、価格以外の特徴を探しだし、フェアトレードの基準について考える(テーマ5)。残りの3テーマは人に伝える力を育てることを目指す。これまでの学習で理解したことを踏まえて、学習者がカフェをつくると想定し、ポップでお客に何を伝えるべきか考え、それを表現する力(テーマ6)を鍛え、ダイアモンドランキングという、いくつかの選択肢に優先順位をつける方法を用いて、与えられた課題に対する解決方法を提案する力(テーマ7)を磨く。そして、フェアトレードといかにつきあっていくのか、様々な意見をまとめあげ発表する力(テーマ8)を養う。
本書には以下の3つの大きな特徴がある。1つ目は、最初から本書を進めたり、2ページに紹介されているティーチングプランに従ってもよいが、学習者の属性や人数、知識の量などに応じて、利用者が本書の使い方を自由にアレンジして使うことができる構成になっている点である。2つ目は、同梱されているアフリカの臨場感あふれる写真教材や、別売りの実物補助教材を適所で組み合わせることで、アフリカをより身近に感じることができる仕掛けが施されている点にある。モノやデータを適所に用いた参加型の学習を通じて、効果的に個人の主体的な学びを促進する創意工夫がなされている点が本書の大きな魅力である。3つ目は発行元の代表者で開発教育の分野で精力的に活動する白鳥くるみ氏はじめ、アフリカ研究やアフリカを対象とした開発援助の最前線で活躍する人びとが、本書の製作に協力している点である。彼らの知見が非常にわかりやすい表現で取り入れられている点も本書の価値を高めている。
ここまで参加型の優良な教材として本書を紹介してきたが、通常の読みものとしても価値がある。行動力や思考力を養うことを手助けする本書は、特にアフリカでの開発援助の実務や、研究者として関わることを目指す高校生と大学生にお勧めしたい。本書はアフリカを深く理解するのに有効な手段と筆者が考える、五感を使って感じ、考え、行動する「フィールドワーク」の基本的な作法を育ててくれる要素が大いに詰まっている。ないものねだりではあるが、実際に課題を読者自身が設定できるようなヒントを提供し、読者が主体的に興味や関心に向かって「フィールドワーク」できる仕掛けが備われば、実践的な教材としての価値はさらに高まったであろう。今後もアフリカ理解プロジェクトによる、このような優れた本の製作試みが継続的におこなわれていくことを期待してやまない。(田中利和/京都大学 アフリカ地域研究資料センター)